お戒壇めぐり
前後に誰もいなくなるのを待って 善光寺のお戒壇めぐりの入口に立った。
しばらく階段を下りると 真っ暗闇 方向感覚も 記憶も かき消されるくらい暗かった
ただただ右側の壁だけが頼りだ 大きな柱の出っ張りがもろに伝わる
この凹凸だけが 真っ暗い中で得られる感覚だ
無言で集中し 鍵に当たった 大勢の人々の本願の賜かつるつるになっている
この世的に言うなれば 真鍮のドアーの取っ手が 金色に光っているイメージだ
前後誰も居ないのを確かめたのは ここでゆっくり最後まで 般若心経をあげたかったからだ
その願いがそっくりそのまま実現した。
終わるまで誰も入って来なかった。 特別の時間が与えられたようで嬉しかった。
真っ暗な経験は 今までに一度あった。
どうにも自分の中で解決できない事を与えられた40年前 5月8日の闇夜の晩
山中の参道を登って天狗様の住むと云う神社の本殿に向かった
途中かすかな 物音にも敏感に反応し その恐ろしさに我が足が 他人の足になって自分の思い通りに動かなかった
ここで帰れば一生負け犬 と自分を励ましなだめ 何があっても這ってでも登ろうと気を新たにした
やっとの思いで辿り着いた 本殿で正座中 天狗が現れ 迷いは解け 周囲は昼間のように明るくなった
あれほど 恐ろしく時間のかかった参道を 昼間の道のように明るく照らされて帰りはあっという間に駆け下りてきた。
今 思いだしても不思議な体験だが あの新鮮な感覚は一生に一度しか体験出来ないものだと思っている。
真っ暗な中での貴重な僕の一生の宝物です。
哲