大阪新聞 平成10年3月11日(水)「大学の名物先生シリーズ27」神戸女子大学家政学部教授 梶原苗美「食糧危機は必ず来る」。食糧不足の時を見据えた世界に例のない貴重な実践研究成果。 |
この大学名物先生 27
平成10年3月11日(水)大阪新聞 |
食糧危機は必ず来る
神戸女子大学教授 梶原 苗美さん |
「来ます。食糧危機は必ず来ます。その時に、こんなものが栄養源になるとか、人間はこれぐらい栄養不足に適応できるというデータがあれば、犠牲者を何分の一にできるかもしれない」 飽食の現代の真ん中で、梶原苗美先生は食糧不足の時を見据えた研究を手がけてきた。 その一つにパプアニューギニアの高地に生活する人々の食生活の調査がある。この人々は、イモばかり食べて、タンパク質をほとんどとらない。普通は、そんな食事では栄養不足で生きていけないはず。食糧不足への適応を考える上では、興味深い研究対象なのだ。 彼らの土地は、赤道直下2000メートルの高地。昼はTシャツ1枚が、夜寝るときにはセーターを2枚重ね、その上にアノラックを着てから寝袋に入る、というような厳しい気候。もちろん、電気、ガス、水道もない。梶原先生はここに、研究チームの一員として88年に2ヵ月間暮らした。食生活の研究だから、排せつ物の分析は欠かせない。毎日、現地の人の便とにらめっこ。また、研究者自身も貴重なサンプル。お互いの便も分析しあう。これは女性としてはかなりきつい。 「日本の施設で分析するために、うんちを空輸したこともありました。朝一番で、現地の人のとれとれの新鮮なうんちをもらってくるんです。これがまた、量が多い。それを、成分が均一になるように混ぜたりする作業は私の担当なんですよ。なま暖かいのを袋に入れて、こう…、あっこんな汚い話していいですか…」 |
ニューギニア高地で現地調査 |
低タンパクの食生活の調査は、日本の研究室でネズミを使った実験調査も行っている。これはすでに10年以上継続されているもので、たぶん世界でも例のない貴重な資料だ。 一方、豚や牛のすじ肉などから大量に取れながら、利用されることが少なかった高タンパクのコラーゲンに注目。メーカーとの協力で、体にとりやすい状態にする方法を研究開発した。食糧危機時の栄養資源としても期待されるが、実はこれ、胃かいように効き目があることがわかり、現在はドリンク剤などにも入れられている。知らぬ間に、私たちは梶原先生の研究のお世話になっているのかもしれない。 「食べ物には、まだまだ私たちが知らない機能がある。その可能性を探りたい。」 |